酸と塩基の定義からpHまでの復習です。酸や塩基、pHが何だったかを簡単に振り返りたい人向けです。
酸と塩基の定義
酸と塩基の定義は色々ありますが、ここで紹介するのは、メジャーなアレニウスの定義とブレンステッド・ローリーの定義です。
アレニウスの定義
水溶液中の酸と塩基を説明するのに使われる、最もよく知られているアレニウスの定義は、以下のとおりです。
【アレニウスの定義】
酸とは・・・水に溶けて水素イオン(H+)を出す物質である。
塩基とは・・・水に溶けて水酸化物イオン(OH−)を出す物質である。
例えば、塩化水素(HCl)は水に溶けて水素イオン(H+)を出すので、酸です。
HCl → H+ + Cl−
水酸化ナトリウム(NaOH)は水に溶けて水酸化物イオン(OH−)を出すので、塩基です。
NaOH → Na+ + OH−
イオンとは
正または負の電荷を帯びた原子や原子団のことです。
正電荷を帯びた陽イオン(カチオン)と負電荷を帯びた陰イオン(アニオン)があります。
ブレンステッド・ローリーの定義
上で紹介したアレニウスの定義では、水に溶けない物質の場合、酸か塩基かわかりません。
そこで、水に溶けない有機物や空気中の反応などにも適用できるように、ブレンステッドとローリーが以下の定義を提案しました。
【ブレンステッド・ローリーの定義】
酸とは・・・プロトン(H+)を相手に与えることができる物質である。
塩基とは・・・プロトン(H+)を相手から受け取ることができる物質である。
例えば、酢酸(CH3COOH)はプロトン(H+)を相手に与えることができる物質ですので、酸です。
CH3COOH → H+ + CH3COO−
アンモニア(NH3)はプロトン(H+)を相手から受け取ることができる物質ですので、塩基です。
NH3 + H+ → NH4+
プロトンとは
陽子のことです。水素原子が1個の電子を失い、陽イオンになった水素イオン(H+)はプロトン(陽子)に等しいです。
酸性・塩基性・中性
酸の性質である酸性、塩基の性質である塩基性、どちらでもない中性について解説していきます。
酸性
アレニウスの定義によると、酸とは水に溶けて水素イオン(H+)を出す物質です。
また、ブレンステッド・ローリーの定義によると、酸とはプロトン(H+)を相手に与えることができる物質です。
酸が示す性質を酸性といいます。すなわち、H+の働きによって引き起こされる性質のことを酸性といいます。酸の性質としては、例えば、3%ほどの酢酸(CH3COOH)が含まれている食酢や、胃酸の成分である塩酸(塩化水素HClの水溶液)は共通してすっぱいです。また、酸の水溶液は、鉄やマグネシウム、亜鉛などの金属と反応して、水素(H2)を発生します。
酸の水溶液が酸性を示すのは、水に溶けると電離し、水素イオン(H+)を生じるためです。しかし実際には、この水素イオン(H+)は水分子(H2O)と結合してオキソニウムイオン(H3O+)になっています。よって、厳密には、酸の水溶液が酸性を示すのは、オキソニウムイオン(H3O+)の働きによるものであり、水溶液中のH3O+の濃度が大きいほど、酸性は強いということになります。しかし、H3O+で説明すると、反応式が複雑になってしまうため、ここではH+と省略しています。
塩基性
塩基が示す性質を塩基性といいます。塩基性とは、酸と反応して酸性を打ち消すなどの性質のことをいいます。また、酸性の水溶液はすっぱいですが、塩基性の水溶液は苦いそうです。
アレニウスの定義では、酸とは水に溶けて水素イオン(H+)を出す物質であり、塩基とは水に溶けて水酸化物イオン(OH−)を出す物質です。
塩基性が酸性を打ち消すのは、酸の出す水素イオン(H+)と塩基の出す水酸化物イオン(OH−)が反応して、水(H2O)ができるからです。この反応を中和反応といいます。
中性
酸性も塩基性も示さない性質を中性といいます。
水素イオン(H+)も水酸化物イオン(OH−)も出さない(あるいは、無視できるほど僅かしか出さない)純水や塩化ナトリウム水溶液は、中性です。
酸と塩基の強さ
酸・塩基はそれぞれ、電離の程度によって、水素イオン(H+)あるいは水酸化物イオン(OH−)の放出量が異なります。たくさん電離して水素イオン(H+)あるいは水酸化物イオン(OH−)の放出量が多くなるほど、酸あるいは塩基は強くなります。
塩化水素(HCl)と酢酸(CH3COOH)の電離の違い
繰り返しになりますが、アレニウスの定義によると、酸とは水に溶けて水素イオン(H+)を出す物質です。また、ブレンステッド・ローリーの定義によると、酸とはプロトン(H+)を相手に与えることができる物質です。
つまり、H+の濃度が大きいほど酸性は強くなるといえます。
例えば、塩化水素(HCl)は水に溶けてほとんど水素イオン(H+)と塩化物イオン(Cl−)に分かれます。このように、物質(ここではHCl)が水に溶けて陽イオン(ここではH+)と陰イオン(ここではCl−)とに分かれることを 電離 といいます。なお、電離する物質を電解質といいます。
塩化水素(HCl)は水に溶けると、ほとんど電離しますので、次のように「→」で表されます。
HCl → H+ + Cl−
一方、酢酸(CH3COOH)は少ししか電離をしませんので、水素イオン(H+)も少ししか出せません。ですので、酢酸の電離の様子は、次のように「⇄」で表されます。
CH3COOH ⇄ H+ + CH3COO−
なお、先述したブレンステッド・ローリーの定義の所では、便宜上 CH3COOH → H+ + CH3COO− で説明しました。しかし実際は、溶かした酢酸(CH3COOH)の一部しか水素イオン(H+)に電離しませんので、「⇄」で表現します。「⇄」は、右向きだけでなく、左向きにも反応が進むということを表しています。
このように、同じ酸でも電離の度合によって、水素イオン(H+)の放出量も異なります。
電離度と酸・塩基の強弱
水に溶けた電解質の量に対する電離した物質の量の割合を電離度といいます。以下の式で表され、電離度は0より大きく、1以下となります。また、電離度は物質の種類や濃度などで値が異なります。
電離度=電離した電解質(酸や塩基)の量/溶解した電解質(酸や塩基)の量
同じ濃度で比較したとき、電離度が1に近い酸や塩基は、電離した際、水素イオン(H+)あるいは水酸化物イオン(OH−)の濃度が大きくなり、酸性や塩基性が強くなります。このため、これらを強酸、あるいは強塩基といいます。
逆に、電離度が極めて小さいものは、水素イオン(H+)あるいは水酸化物イオン(OH−)の濃度が小さくなり、酸性や塩基性が弱くなります。このため、これらを弱酸、あるいは弱塩基といいます。
水の性質と酸性・塩基性・中性の関係
純粋な水でも、わずかに電離しており、以下のように水素イオン(H+)と水酸化物イオン(OH−)を出しています。
H2O ⇄ H+ + OH−
しかし、水素イオン(H+)と水酸化物イオン(OH−)のモル濃度は等しく、25℃ではそれぞれ1.0×10−7 mol/lとなります。つまり、水素イオン(H+)と水酸化物イオン(OH−)のモル濃度を[H+]と[OH−]で表すと、次のようになります。
[H+]=[OH−]=1.0×10−7 [ mol/l ] (25℃)
純水や水溶液中の[H+]と[OH−]の積を水のイオン積といいます。この値は、一定温度で一定になり、25℃では1.0×10−14 [mol/l]2となります。
水のイオン積=[H+][OH−]=1.0×10−14 [mol/l]2 (25℃)
水のイオン積は一定温度で一定の値ですから、水に酸や塩基と溶かすと次のようになります。
- 水に酸を溶かす・・・[H+]は増加、[OH−]は減少する。
- 水に塩基を溶かす・・・[H+]は減少、[OH−]は増加する。
純粋な水は、[H+]=[OH−]なので中性です。しかし、酸や塩基が溶けた場合は、[H+]>[OH−]や[H+]<[OH−]となり、酸性または塩基性となります。
25℃では、次のような関係になります。
酸 性:[H+]>1.0×10−7 [ mol/l ] >[OH−]
中 性:[H+]=1.0×10−7 [ mol/l ] =[OH−]
塩基性:[H+]<1.0×10−7 [ mol/l ] <[OH−]
モル濃度とは
溶液1Lあたりの溶質の物質量[mol]で表した濃度で、次式で表せます。単位記号はmol/lです。
モル濃度[mol/l]=溶質の物質量[mol]/溶液の体積[l]
物質量とは
物質量は次のように表されます。
物質量[mol]=粒子の個数/アボガドロ定数[/mol]
アボガドロ定数は、約6.022×1023/molです。
アボガドロ定数(約6.022×1023/mol)と等しい個数の粒子からなる物質を1モル(1mol)といいます。すなわち、分子、原子、イオン、電子などが6.022×1023個含まれているときが1molです。
アボガドロ定数=約6.022×1023[ 個 /mol]、粒子の個数[ 個 ]と考えれば、単位が揃ってわかりやすいかもしれません。
水素イオン指数(pH)
上述のとおり、水溶液の酸性・塩基性の強弱は、水素イオン濃度[H+]の大きさで表すことができます。しかし、[H+]の値は1~10-14mol/lという非常に広い範囲で変化するので、そのまま使うとわかりにくいです。そこで、酸性・塩基性の強弱をわかりやすい値にするため、水素イオン濃度[H+]の逆数の常用対数−log[H+]で、[H+]の大きさを示すことになりました。この値をその水溶液の水素イオン指数といい、pH(ピーエッチ、またはペーハーと読む)の記号で表します。
pH = log(1/[H+]) = -log[H+] = −log10[H+]
[H+]:水素イオンの濃度
例えば、X = 10nのとき、nをXの常用対数といい、n=log10Xのように表します。上の式より −pH=log10[H+]なので、[H+]=10-pHとなります。
つまり、[H+]が10-a mol/lのときのpHはaになります。例えば、25℃の中性の水溶液では、[H+]は1.0×10-7 mol/lであり、pHは7になります。
pH = -log[H+] = −log(1.0×10-7)= −log10-7= 7
上の式からもわかるように、pHの数値が1異なると濃度は10倍異なることになります。また、pHの数値が小さいほど[H+]が大きくなり、酸性が強くなります。逆に、pHが大きいほど塩基性が強くなります。
まとめ
酸と塩基には水素イオン(H+)が関与しており、この水素イオン(H+)の濃度によって酸と塩基の強弱が変わります。
酸と塩基の強弱をわかりやすくしたものが水素イオン指数(pH)というものです。
pHとは、水素イオン(H+)の濃度をもとに、酸、塩基の強弱を0~14の数値で表したものです。pH = 7の時が中性です。pHが7より小さくなるほど酸性が強くなり、7より大きくなるほど塩基性が強くなります。
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